2008年12月15日月曜日

今後の問題点

◎紀伊@都立大です。
◎篠原@京都さんのメールを興味深く読ませていただきました。
◎たいへんすごい文章で、圧倒されてしまいました。
◎私は、カレル、ヴァン、ウォルフレン氏の話、土井健朗の
◎本など全く読んだことがなく、誰の論がどうこう、などと
◎いう話は全くできませんが、とにかく、最後に、おっしゃ
◎ってくれた、
◎★「しかし、一般受けすることを狙った過激さよりも、本
◎★当に大切なのは、現在のシステムの問題を把握し、
◎★ひとつひとつそれに解決の手をのばすことだと思います。」
◎は、大切なことだと私は、感じました。
◎何事も、口でいってもそれを一つ一つ実行していくのは、
◎たいへん、きついことです。それに実際に、思ったことを、
◎実行するのには、たいへんな困難が生じてきます。問題を把
◎握し、細分化し、一つ一つ解決策を見い出し、それを実行し
◎ていくことは、とても大切なことではないかと思います。
◎そして、その解決策の模索と実行のために、この会は存在す
◎るものではないかという気がします。
◎政治、経済、産業、など、さまざまな分野で問題が発生して
◎おります。そのすべてを一度に議論しようとせずに、自由に
◎ということも大切ですが、ある程度、論点を絞り込んで、議
◎論することも大切ではないかと思います。問題をわけて、焦
◎点を絞り議論することを、私は、提案します。
◎とりあえず、私が思いつく、日本の問題を上げたいと思います。
◎1高齢化
◎2行政改革
◎3通信料などの通信インフラに関する問題
◎4日本のマスメディアに関する問題
◎これ以上は、パット頭に浮かびませんでした。絶対、他にも
◎たくさんあるとは思いますが。
◎皆さんのお返事を待っております。
◎それではこれくらいで、サユナラ

◎紀伊@都立大でした。

 経歴について若干述べたことで、皆さんを驚かせてしまったようですね。そうなるのではないかと心配していたので、少し申し訳ない思いが致します。しかし、僕のような経歴は本当にあることなのです。テレビや漫画でしか見られないであろう人間が実際にいることをお知らせするのは、この会の結成の意味からいっても、大切なように思い、苦労自慢に堕さないか心配でしたが、いささか書き留めてみた次第です。

また、2、3日ほど皆さんのメールを読ませていただきましたが、どうも僕の意見はこのままだと浮いてしまうような気がしました。ふだんの生活の場ならいざ知らず、次の時代を自由に語ろうといって集まったこの場で、自ら韜晦したくはありません。思ったことを、バンバンぶつけさせて戴くつもりです。いくら一人で努力したところで、所詮は一人です。思考回路も、生い立ちに左右されていまいがちだと思います。それに、一人では何も動かすことは出来ませんが、沢山の人が動けば、大変なことがやれるというのは、神戸で強く実感したことです。だからこそ、"ムーブメント"の意味は、極めて重いと言えると思います。念のためにつけ加えますが、僕のなめねばならなかった苦労は、僕が進んで選んだものではなく、父の道連れでやむなく受けざるを得なかったもので、エラクもなんともないのです。もし引け目を感じた人がいたとしたら、それは意味がないのでやめて下さい。ただ、僕の意見が皆さんとやや角度を異にし、アクのきついものになる理由を察していただければ有り難いです。

大切なことは、これからの時代を、各自がどう生きていくか、ということだと思います。この会から、様々な生き様を選べるようであって欲しいと願います。時には、全く逆に見える生き方の人たちが併存してもよいと思います。ただ、自分を包み隠さず、自由に議論を展開できる場であり、各自が自分なりの答えを見つけることが出来、しかも力を合わせて何事かを成し遂げてゆける、そんな集まりであれば、これ程良いことはないと思います。

せっかくですので、ここでいくつか、僕から提言させていただきます。先ず、出来るだけ、ウォルフレン氏の著作を読んでいただきたいということです。今の日本が抱える問題を理解するには、この人の分析が最もよいと信じるからです。僕自身、この人の本を読んで初めて、なぜ僕の家族をここまで徹底的に追いつめなければならなかったのか、その動機が理解できました。この人の主著は「日本/権力構造の謎」が挙げられるのですが、それを読む前に「人間を幸福にしない日本というシステム」という本を読まれる方がよいでしょう。日本のシステムの問題を把握するにはこれで充分ですし、日本人への呼びかけとして書かれたということもあり、非常に読みやすく、理解もしやすいものです。京都に住んでいる方は、京大の生協書籍部「ルネ」で購入できます。かなりやかましくいったので、「ルネ」にはウォルフレンの主な著作が、上記の2つの他に、「日本の知識人へ」、「支配者を支配せよ」も陳列されています。

20日付の朝日新聞の一面に、橋本首相の言葉が載っていました。「六つの改革」の進め方について、行革本部長が「優先順位をつけたらどうか」と進言したのに対し、首相は「システムは相互に密接に関連している」として一体処理の方針をを示したそうです。この「システムは相互に密接に関連している」というスタンスこそ、ウォルフレン氏が繰り返し訴えていることで、今の主要政党の党首近辺で、この分析を土台にしていない人はいないと断定できるほどです。今の政治改革の方向がよくつかめないでいる人は、この本を読めばすぐに解るはずです。なお毎日放送の筑紫哲哉氏がウォルフレンと意見を交換することがたびたびあるので、注意してみて下さい。

さて、今後日本が迎えねばならない問題として、最悪の場合、次のようなものが挙げられると思います。

1.流通システムの崩壊
 来世紀には、世界的に食料が不足します。その時日本は、国民を養う主要産業を何も持っていない事態に至ることが、十分に考えられます。しかも、若年層が薄く、老人の多い活力のない国になっていると予測されます。また、日本の国土は農薬、化学肥料、減反などで既にかなりダメージを受けており、元々3000万人程度しか養えない国土が、さらに貧弱になっています。飢餓は黙視できない、最重要課題となるでしょう。これに対して、僕たちが出来ることはなんでしょうか。先ず、最悪の場合、自分の住む地域の人たちだけでも食糧を確保できるようにして下さい。そのためには、地域の人間のつながりを強化し、自治制を強めることです。出来れば、今のうちに日本の農村と協力体制を形成しておき、自分の町の人たちだけでも飢えないようにする工夫を始めて下さい。暴徒化する人を、なるべく少なくするためにも、大切なことです。農村に労働力(例えば退職してヒマを持て余している人たち)を提供し、地域独自の流通システムを構築して下さい。いったん混乱が起きれば、現在ある流通システムの崩壊する可能性は大です。もう一つは、出来るだけ小さい単位の地域で、アジアの農村とリンクして下さい。国内ではどうにもならなくなったとき、頼れるのは近隣国であるアジアだけです。遠い将来、難民として受け入れてもらえるくらいの親密さを持てればよいのですが。最後に、真面目に働くことです。研究者なら、独創性のあるものをめざして下さい。それが日本を支えることになります。それを妨げるものには、食ってかかるくらいの腹づもりをして下さい。

2.教育制度の改革
 皆さんが気付いているかどうかは知りませんが、今の十代の8割以上は、神経症に陥っているとみなければならない、非常事態です。暴徒予備群が、相当数増えています。(「盗む」という感覚さえ喪失した中高生が「普通の少年」であるということ、震災で最も活躍したのが普段ヤンキーと呼ばれて煙たがられている連中であり、大学生はほとんど逃げ出し、なんの役にも立たなかったことなどが根拠として挙げられます。すなわち、正常な人間と呼ばれている人間が実は異常であり、はみ出しものと呼ばれている人間は、実は精神的によほど健康であるという、逆転現象が起きているのです。震災で典型的だったのは、被災状況を目の前にしながら、「議論のための議論」に拘泥し、ヤンキー達は遊び半分で来ながら、目の前にした途端阿修羅のように人命救助に当たったことです。しかし、彼らを評価することは終ぞ行われませんでした。報道規制があったのだろうと、私たちの間で言っています。)私たちのやれることはなんでしょうか。むろん、政府に教育制度の抜本的な改革を進めてもらえるよう、応援をすることです。単なる応援をするだけでなく、ネット上でもかまいませんから、教育問題に携わる人に勉強会を開いてもらい、その中から提言していくことも試みましょう。(僕は個人的に、灰谷健次郎さん(「兎の目」「太陽の子」などの小説)に頑張って欲しいと思っています。)また、地域の青年団を、新たに作った方がよいでしょう。青年団と言うよりも、世代を越えて触れ合える、子どもの広場のようなものが、いつも開かれていて、そこに必ず保護者ないし年上の人間がいるというものを作っていただきたいです。今の子どもには極端に人間同士のふれあいが少ないので、これを増やすというのが基本的な路線です。

3.宗教の改革
 オウム真理教のような狂気の集団が、麻原の手法を学んで、各地で横行する時代が、食糧危機のために暴徒があふれてしまった場合、充分来る可能性があります。宗教は見逃せに出来ない影響力があり、今のような冠婚葬祭会社に過ぎなくなった宗教界は、何とか変わってもらう必要があります。先ず、地元の小さな寺社、教会には、もう一度人々が交流する場であり、今後の方針を考えていく場になるよう、住持なり神官なり神父なりに、これからの時代をよく説いて下さい。また、これはこの会全体の行動とすることを提議しますが、例えば京都にあまたある「観光株式会社」然とした寺社仏閣を管理する糞坊主に、宗教者としての自覚を取り戻すようメッセージを送り続けることです。宗教は宗教でしか制することが出来ません。今の金儲け主義に走っている風潮を内部から変革されるのを助けるためにも、出来るだけ多くの人々の連名でメッセージを送ることが、有効だと考えます。

4.高齢化社会
 国の援助は当てに出来ると思わないで下さい。首相は今、隠しています。正直なところでは、もはや老人福祉を支える力は、今後の日本に残されていないのです。地域のネットワークを強化し、老人介護を協力して軽減する努力を考えて下さい。

5.国・地方の経済破綻
 もはや、政府に頼ることは考えない方が無難です。あとで文句を言っても始まらないのです。経済破綻を回避するには、二つの方法があります。一つは、支出を減らすこと、すなわち緊縮財政です。もう一つは税収を伸ばすことですが、これには増税によるものと景気回復によるものがあります。増税に関しては、今の日本の各方面での負債状況を見渡すと、歯止めの利かないものになりそうです。また、景気回復に頼る方法は、既に過剰に生産される商品供給力が、世界の消化能力を超えていること、環境問題、食糧問題の観点から、これ以上の物質的商品の開発にはあまり展望が開けないこと、かといって、知的技術を売るソフト部門で活躍するのに必要な創造性は現行の教育制度のために枯れさせてしまっていること、そして何より、人々の意識下に「安易な景気対策でごまかしてはならない、今だからこそ見直さなければならないものが、日本人には突きつけられているのではないか」という疑問が根付いていることなどから、根本的な解決方法とはなり得ないと思われます。従って、基本的には緊縮財政を柱にせざるを得ないでしょう。福祉や雇用対策に手が回らなくなる可能性があり、自分の住む地域で自給できるような体制を、他の地域とのネットワークを利用して確立することが急務です。

6.金融恐慌
 こればかりはどうにもなりません。何とか出来たのはバブル時代が終焉したときに終わっており、今はただ結果を甘受するより仕方がないでしょう。以上、長々と述べたてましたが、どんな混乱があっても頼ることが出来るのは、最終は「人間」しかいないと言うことです。小さくてもしっかりしている自治体が、相互にネットワークを張ることが、最も確実で、強力な方法だと思います。(最後に、今回は指摘するにとどめますが、価値観を再構築する作業を始める必要があります。デカルトが現れて以来、彼が生み出した二つの原理のうちの一つ、「全ての既成概念を疑うか、ないしは否定せよ」が、徐々にその効力を世界に示し始めました。特に、思想輸入国であるアメリカと日本に、その作用が強く現れました。今の日本に芯になるような人間観が失われたのは、戦前教育排斥主義だけでは片付けられないものがあるように思います。デカルトの第二原理、「真理と思われるものから、思想を再構築せよ」を、世界的な観点から行わなければならないように思います。)

以上、誤字の確認もしていませんし、文章に混乱もあることでしょうが、取り急ぎお伝えいたします

推薦書

これからの時代を考えていくのには、知恵が必要だと思います。
また、現在の分析はどうしても欠かすことができません。現代を理解する上で役立つのではないかと思う本を列挙してみましたので、興味の湧いた方は読んでみて下さい。

1.「ベスト&ブライテスト」サイマル書房 デイヴィド・ハルバースタム 
 ベトナム戦争の泥沼に、なぜアメリカは飲み込まれてしまったのか。「最良の、そして最も聡明な」側近によって、何が導かれたのか。政治とは何かを考える上での好著。

2.「覇者の驕り」 デイヴィド・ハルバースタム 
 アメリカのフォード、日本の日産という自動車会社を取り上げ、その栄枯盛衰を描き出す。「驕ったとき、その墜落は始まる」というハルバースタムの基本的認識を明確に打ち出した著作。後半のフォードが辿った道と、その時の時代背景は、あまりに日本のバブルと酷似しているので、注目。

3.「菊と刀」 ルース・ベネティクト 
 第2時世界大戦中のアメリカにおいて、日本軍の理解に苦しむ行為は、日本人像を怪異なものにした。政府から依頼を受けた著者は、膨大な資料を渉猟し、その日本人像に迫った。多くの誤認があるものの、日本人がなぜ西洋人の考えるような行為を取らないのかが、解明されて行く。西洋が日本人をどう捉えてきたかを知る上で、必須の本。

4.「甘えの構造」 土居健郎
 「甘え」という、日本語特有の概念から、日本人の持つ不思議な行動様式をときほぐしてゆく。戦後の日本の心理学に、絶大な影響を与えた著作。

5.三笠書房、PHP文庫に多数 加藤諦三
 人間は、自分で自分を駄目にしてしまうことが多い。それがいかにくだらないことかを繰り返し説く。現代の若者が抱える苦悩に、懇切丁寧にヒントを与える。(初期の著作は、自分の父親に対する中傷が繰り返され、やや鼻につく難あり。)

6.「人間を幸福にしない日本というシステム」毎日新聞 カレル・ヴァン・ウォルフレン
 「日本・権力構造の謎」において、日本という不可思議な社会、人間を、権力というテーマを掘り下げることで明らかにしてゆこうとした著者が、日本人に向けて送り出したメッセージ。同じ人間である日本人が、なぜこれほどまでに特殊だと強調されるのか、また、事実特殊だとしか思えない行動は、なぜ現れるのか。「同じ人間である」という信念のもとに、この国をもっと生き甲斐の持って生きれる国にすることができると訴える。「菊と刀」を越える日本人論とさえ呼ばれる著書の、入門書として最適。(京大書籍部「ルネ」に、多数置いてもらっています。)

7.「菜根譚」PHP文庫、あるいは三笠書房、岩波文庫
 守屋洋など 明末の混乱期に、自らの処世訓を書き留めたもの。儒教、道教、仏教を修めた博識と、豊富な人生経験から生まれた知恵は、非常に観るべきものがある。

8.「阿片戦争」 陳舜新
 清末の退廃した国情の中、人々はどのように生きようとしたのか。混乱期にはどういう人物が求められるのか、そして混乱期を乗り越えられなかった国は、どのように苦しむことになるのかを、浮き彫りにする。

9.城山三郎 著作多数
 経済システム、政治の論理を理解するのに最もコンパクトな小説。浜口雄幸、井上準之助を採り上げた「男子の本懐」は、昭和初期の日本の、硬直化した政治システムと破綻した経済を立て直すのに、どのような格闘を強いられたのか、それが失敗したとき、国はどのような方向に向かいかねないのかを窺う、良書。

バブル経済

バブル経済とはなんだったのでしょうか?テレビ、新聞でも、いまだにこの文字が飛び交っています。現在の日本は、「バブルの後遺症」に苦しんでいるということも、日を措かず耳にします。その割には、バブル経済が具体的になんだったのか、何をもたらしたものだったのかは、あまり知られてはいないようです。あるいは、よく知ってはいても、自分自身もバブルに踊ってしまったクチのために、怒りを持つことができないでいる人もたくさんいます。私たちがもし、自分の問題として、このバブル経済にみられた諸現象を反省できなければ、次の時代を大変な混乱の中におとしめることになるように危惧します。次に、バブル経済に関して、私なりの理解を綴ります。+++++++++++++++++++++++++++++++バブル経済は、プラザ合意による急激な円高に対抗するためのものでした。日本は戦後、紡績、鉄鋼、造船、家電製品、自動車、半導体と、世界を席巻する産業を、次々に送り出してきました。日本は経済大国になっていましたが、それを自覚する雰囲気はまだ希薄でした。ところが、プラザ合意により、急激な円高が始まると、2つの重要な現象が生じました。ひとつは経済的な面です。急激な円高に対抗できるように、徹底的な合理化を推し進めることが急務となりました。二つ目が、精神的な側面です。大国意識が芽生えたのです。こんな円高を設定しなければならないほど、世界は日本の技術力を脅威に思っているのか、と。各企業が円高に耐えうる合理化(工場のオートメーション化など)を推し進めるのには、潤沢な資金を必要としました。そのため、大きく二つの手法が大蔵省の指導により取り入れられました。ひとつは、投融資の活性化と、不動産資産価値のつり上げです。投融資の活性化は、株式市場に活況をもたらしたばかりでなく、住専問題で明らかになっているように、地上げ屋への資金調達にも手を貸すことになりました。これにより、企業は株式からの潤沢な資金と、資産価値が大幅に上昇した土地を担保にした巨額の資金を得、合理化を推し進めました。その結果、雇用を維持したまま合理化をやってのけるという魔法を成し遂げました。高い技術力を維持しながら、低廉な外国製品に対抗する力を持てたのです。しかし、それは労働者の犠牲の上に成り立っていました。豊富な資金の流れは、当然労働者の賃金を押し上げることにもなりましたが、物価はそれを上回る勢いで上昇しました。故意に高い物価水準に固定することで売り上げに占める利潤を増やし、その大幅な利潤を海外輸出する製品の価格を引き下げるために充てました。「逆輸入した方が安い日本製品」という逆転現象は、国内の物価高に支えられていたわけです。これにより、海外の安い製品に対抗できたのです。つまり、あまりに明白な「ダンピング」行為でした。アメリカがスーパー301条という法律を適用してダンピングとして摘発したのも、無理はなかったのです。ところが政府は、マスコミと知識人を抱き込んで、「アメリカは嫉妬している」、「悪いのは怠け者のアメリカ人の方で、働き者がもうけるのは自明の理だ」と事実にそぐわない宣伝を行うことを選んだのです。しかし、当時大幅な合理化に成功していた日本製品の優秀さのために、結局アメリカ国内の需要を抑えることができず、アメリカ政府も撤回せざるを得なくなりました。これによって、日本人は傲慢になりました。「ブツブツ文句を言ったって、日本製品を買わなきゃ、世界は成り立たないんだ。」バブル経済は、企業の合理化と、政府の累積債務を軽減できた段階で(愚かなことに、このときに累積赤字を減らす努力を怠りました)やめるべきでした。ところが、この手品のような、無からお金を生み出す手法の妙味を覚えてしまった管理者(administrator)は、とどまることを知りませんでした。ここから日本人は、精神を崩壊させていくことになりました。不動産投資の激増にのっかって、魑魅魍魎が暗躍するようになりました。地上げ屋による殺人が多数起こったのはこのころです。株式投資の活性化は、「日本企業を円高不況から救済する手品」から、日本の企業の根幹を揺るがしかねないものへと変質していきました。イトマン乗っ取り事件などの世間を騒がした事件は、政府の思惑を逆手に取りうることを示した事件でした。「影」の存在である筈の暴力団の経営する会社が多数設立され、産業界に姿を現すようになりました。空前の財テクブームは、日本人に残っていた輝きの最後の一欠片を、微塵に打ち砕くものでした。マル優の廃止は結果として、豊富な資金が行き場を失い、ごく普通の人が、財テクに走るように使嗾するようなものでした。日本全体に行き渡った投資熱に当てられ、かなりの数に登る人々が「金儲け」に狂奔しました。巨大な資金が流通したために、未曾有の好景気が訪れました。人々は高収入と大国意識とで、すっかり有頂天になってしまいました。節倹が美徳であるという風潮は、この時点で完全に失われました。衣料に典型的に現れたように、値段の高いものでなければ売れないという現象が起きました(食品ではグルメ)。たとえ質の良い製品でも、値段が実状より高く設定されなければだれも買わないという「異常」が続きました。その状態が長期間続いたために、商売をする人々が、真面目に商売する意欲を失いました。客を騙さなければ儲からず、たとえくだらない製品でも値段をべらぼうに高く設定すれば、争うように売れてしまうといった状況だったからです。そこでは、「商道徳」という言葉が滑稽にしか響きませんでした。倫理という言葉は、当然空疎化しました。産業の合理化と、好景気とは、労働者に「ゆとり」を与えませんでした。それどころか、「合理化しなければ会社が潰れる」という強迫観念の副産物として、強力な主導権を労働者に対して握った企業(「合理化の対象」にするぞ、という脅しが多用された。)は、好景気を理由に引き続き会社のために身を粉にして働くことを要求しました。強壮ドリンク「リゲイン」の「24時間働けますか」というイメージソングは、その風潮を表すものでした。家族を持つ会社人間に単身赴任を命じるという理不尽さを、当たり前のこととして受け入れなければならないような空気が、会社の中に蔓延しました。滅私奉公を求める会社の組織としての非情さと、「私は何のために働くのだろうか?」という人間として当然現れてくる疑問とのギャップに、人々の精神は大きく平衡を失い始めました。単身赴任や過剰労働による家族のふれあいの喪失、転じて人間性の喪失が、全国的に起こりました。人々は、人生の意味を見失い、「死んだ魚の目」のような、澱んだ目をするようになりました。倫理の無意味化と人間同士のふれあいの消滅は、その時に幼年期、少年期を過ごした世代に、悲しむべき傷跡を残すことになりました。暴力団は未曾有の好景気の波にのって、組織を爆発的に拡大していきました。暴力団は「影」に君臨するだけでは満足しなくなり、次第に表舞台に現れるようになりました。暴力団関係の会社が次々と設立されました。のうのうと暴力団がのさばる世の風を、やはり子供は敏感に感じとっていました。倫理の無意味化は、倫理的な行為をポーズだとしてせせら笑う、歪んだ精神構造を生み出すことになりました。精神の均衡と、人生の意味を見失った人々は自ら、バブル経済の隙間に暗躍した魑魅魍魎たちの予備軍へと変身していきました。子供はそれを敏感に感じとり、人間の命を食い物にして欲望を達成しても、誰もそのことをいけないとはいわないのだという、ニヒリズムが心に巣くうようになりました。青年は人生の無意味さと生きていくことの安易さから、若者らしい潔癖さとバイタリティーを失い、どんどん享楽的になって行きました。あまりに生きていくことが容易なために、進学用以外の勉強をすることに何の意味も見いだせなくなっていました。社会を成立させる根本である精神的エネルギーを、とうとう喪失してしまいました。尾崎豊の歌が流行しました。昭和天皇が亡くなりました。新しく即位した現天皇は、その時の国内の現状に懸念を表明しました。日本銀行総裁に三重野氏が就任しました。ここから、高金利政策と銀行の資金流通量の制限による、バブル退治が始まったのです。バブルは、まもなく終焉することになりました。しかし、その時には既に日本人には、過去の輝かしい栄光を自らの手で勝ち取るのに必要不可欠なものが、失われてしまっていました。タイの人々が家族のように大事にしている水牛が、日本ではネコやイヌの餌になるという事実を、経済格差を理由に平気で見過ごせる精神構造に、日本人はなっていました。米不足の時には、大量のタイ米が捨てられ、タイの人々の恨みを買いました。日本で消費される食糧の40%が、残飯として捨てられるようになりました。(僕が小さい頃には、娯楽番組が食べ物を粗末にすることを本気で怒る人が大勢いました。)「天啓」と言えるような現象が立て続けに起きました。米不足を引き起こした、異常な長雨の年の次には、雨がほとんど降らない異常な酷暑の年となりました。戦後最長の不景気と、異常気象は、人々に不安を植え付けました。しかし、まだ人々には不安を否定するだけの余裕がありました。まだこのころには、「景気はいずれ良くなる」と本気で信じている人がいました。まるで反省を行わない日本人に見切りをつけたかのように、「日本株式会社」の小型版、「神戸株式会社」に、阪神大震災が起こりました。具眼の人は、この震災において、はからずも日本人がいかに崩れてしまっているかを読みとりました。真っ先に神戸に入り、救命活動を活発に行いながら、遅れてやってきた警察に追い出されたヤンキーたちと、頭でっかちに理屈ばかりをいい、逡巡しては何も行動を起こせなかった「真面目な」学生たちとの好対照。震災の規模を把握できず、10万人要請すべきを「職業ボランティア1000人」だけを募集した地方自治体の長の感性の欠如。行政の発表を愚かにもそのまま報道し、多くの人命をむざむざと消えていくに委せることになったマスコミの判断能力・批判能力の欠如。救援の手がさしのべられるのををただ口を空けて待つだけのように見える、気概の欠片も見えない人たち。・・・「あれは自然災害、だから仕方がなかった」といういいわけを日本人に許さぬ出来事が、程なくして起こりました。オウム真理教による「地下鉄サリン事件」。人々はもはや、この国が抱えている最大の問題は、政治でも経済でもなく、「人間」であることを認めなければならなくなりました。心理的に、日本(ひいては人間)の根本的な改革が行われない限り、人々は景気が良くなるような動きを差し控えるだろうことが、漠然とではあるもののはっきりしてきました。そして、ばく大な政府の累積債務が重要課題として浮上してきました。これまで国をリードしてきた官僚は自信を喪失し、自浄能力を失っていることがはっきりしました。日本は、この後遺症から立ち上がれるでしょうか?

これまでの発言

1. これは、「ムーブメント~未来竜馬ネットワーク」というメーリングリストで交わされた議論を抜粋し、紹介したものです。
1. バブル経済
2. 推薦書
3. 今後の問題
4. 応援団
5. 食糧危機
6. 食糧事情
7. 知識を自分のものとするために
8. 無償の行為
9. 「史記」挿話
10. 身分振り分け制度
11. 森をみる
12. 食糧事情2
13. 「いのち」とシステム
14. 量子論
15. 歴史を創る哲学
16. 哲学を学ぶには
17. 合理主義の魅力と弱点  
18. 合理主義の破壊作用・ユートピア  
19. システムとその魂
20. 「大震災2周年におもう」
21. 膏肓
22. 現実感覚の喪失
23. 現実感覚の喪失・自覚
24. 足元が崩れている
25. 理想を語る


2. これは、神戸連続児童殺傷事件があった際、「ムーブメント」で交わされた議論を掲載したものです。ここで「シン」としてあるのが、私の意見です。

1. シン[ryoma 961]
2. タカサト(Re:1)[ryoma 965]
3. えんてい(Re:1)[ryoma 966]
4. シン(Re:2)[ryoma 976]
5. メンジョウ(Re:3)[ryoma 983]
6. ウエミチ(Re:2)[ryoma 988]
7. オオイシ[ryoma 1010]
8. ニシザキ(Re:7)[ryoma 1012]
9. ウエミチ(Re:8)[ryoma 1014]
10. シン(Re:7)[ryoma 1015]
11. シン(Re:9)[ryoma 1016]
12. ウエミチ(Re:11)[ryoma 1019]
13. イムラ[ryoma 1026]
14. ウエミチ(Re:13)[ryoma 1027]
15. ナカジマ[ryoma 1028]
16. イムラ(Re:14, 15)[ryoma 1029]
17. シン[ryoma 1185]
18. えんてい(Re:17)[ryoma 1189]
19. シン(Re:18)[ryoma 1191]
20. ナカジマ(Re:18)[ryoma 1233]
21. シン[ryoma 1237]
22. えんてい(Re:21)[ryoma 1242]
23. えんてい(Re:20)[ryoma 1244]
24. シン[ryoma 1262]
25. ナカジマ(Re:23)[ryoma 1264]
26. シン(Re:22)[ryoma 1267]
27. ナカジマ[ryoma 1269]
28. クニヒロ(Re:26)[ryoma 1273]
29. シン(Re:28)[ryoma 1276]
30. クニヒロ(Re:29)[ryoma 1278]
31. 「心機妙変を論ず」[ryoma 1279]
32. えんてい(Re:26)[ryoma 1292]
33. えんてい(Re:28)[ryoma 1293]
34. クニヒロ(Re:33)[ryoma 1302]
35. シン(Re:30)[ryoma 1304]
36. シン(Re:33)[ryoma 1309]
37. クニヒロ(Re:35)[ryoma 1311]

はじめに

 このホームページを開設して、実に3年を経過しています。更新を長く行っていないにも関わらず、たくさんの方にご覧戴き、多くのご意見を戴きました。ここに厚く御礼申し上げます。
 三年前の97年の元旦、日本経済新聞が「2020年からの警鐘」を掲載してから、国内の改革熱は一気に高まりました。しかしあの当時、日本が本当に危機的な状況にあると考える人は、まだ多くはありませんでした。
 今や、あのときとは比べものにならないほど、危機的状況はさらに深刻さを増しています。私たちがこれから迎えなければならない苦難は、大変なものになると思われます。
 その苦難にどう立ち向かうか。「共に生きるために」何を為さなければならないのか。これからもそれをみなさんと共に考え、生きていきたいと考えています。

2000年秋 篠原 信

共に生きるために

旧ホームページから引っ越しました(2008.12.11)
私たちは未来に、何を思い描けばよいでしょうか?私たちは何を心にとどめなければならないのでしょうか?社会はますます加速度的に変容し、それに私たちは後追いしていかなければならないようになっています。
「共に生きる」ために、私たちは何をしていかなければならいのか。それを考えようというページです。
はじめに
石油で作るコメ
これまでの発言
書籍紹介 (2000.11.3 new)
雑文
豆知識